映画「劇場」を観た

「劇場」という映画、皆さんご存知?

ピースの又吉直樹さんの小説が映画化されたものなのですが、全国の映画館での放映とあわせて、Amazon Primeビデオで同時配信されるっていう試みが話題になりましたよね。

原作の小説は一切読んでないのですが、AmazonPrimeビデオにて視聴させていただきました。

 

これがまたなんというか、よくある雰囲気系〜な邦画なんだろなと、正直期待してなかったのですが、何度も見るうちに私の中ですごく好きな作品へと変化していった、スルメ的おばけ映画でした。

実は公開されてすぐ観たのですが、せっかくなのでこれからもいろんな方に観ていただきたく、僭越ながらレビューさせていただきますので、ご興味あればぜひご覧くださいませ。もちろんネタバレはほんのり含みます。てか、ネタバレのないレビューなんて、レビューじゃないよね。

 

あらすじと舞台

あらすじはこんな感じ。

高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑)。しかし、前衛的な作風は上演ごとに酷評され、客足も伸びず、劇団員も永田を見放してしまう。解散状態の劇団という現実と、演劇に対する理想のはざまで悩む永田は、言いようのない孤独を感じていた。そんなある日、永田は街で、自分と同じスニーカーを履いている沙希(松岡)を見かけ声をかける。自分でも驚くほどの積極性で初めて見知らぬ人に声をかける永田。突然の出来事に沙希は戸惑うが、様子がおかしい永田が放っておけなく一緒に喫茶店に入る。女優になる夢を抱き上京し、服飾の学校に通っている学生・沙希と永田の恋はこうして始まった。

公式サイトより引用)

太宰作品ぽい感じだと、よく言われているようですね。わたしは活字読むの得意じゃないので、その辺の感覚値はよくわかりませんのですが…。

舞台はほぼ下北沢。途中渋谷とか高円寺とかもチョロチョロ出てくるけど、大部分が”演劇の街 下北”をふんだんに使った作品でした。

よく行くし近所だしで、それだけでもちょっと「オッ」となってしまう単純かつミーハーなあたくし。よく行くご飯屋さんも出てきたりして、「ほほーう」とか言いながら観てしまいました。

 

冒頭〜中盤まではとにかくイラつく

いきなりで申し訳ございませんが、正直この映画は見る人をめちゃくちゃ選ぶと思います。

冒頭15分みて無理なら多分無理で、物語は大きな抑揚があるわけでも劇的なシーンがあるわけでもなく、淡々と物語が進むので、退屈に感じてしまう人もいると思います。

かくいうわたしも、序盤からイライラしっぱなしでした。山崎賢人さん演じる「永くん」が、とにかくクズ。モーレツにクズすぎる。コミュ障で承認欲求の強いヒモ男。ギャンブル以外のクズムーブはほとんど制覇してる。見事なクズっぷりにひたすらイライラしてしまうのです。

それと対比するように、松岡茉優さん演じる「サキちゃん」はとにかく優しく、天使のような存在。天使とかっていうよりむしろ菩薩。なんでそれ許しちゃうの、なんでそれ笑ってられるの、っていうところがたくさん出てくるので、それにもなんだかイライラする。ダメンズホイホイだし、ダメンズ製造機。

そんな両極端な2人が恋に落ちて、日々を一緒に過ごしていく様子が描かれている本作。物語の序盤から終いまでハラハラドキドキする映画が好き!という人には、時間の無駄とさえ思えてしまう映画かもしれません。実際にAmazonでもそのようなレビューは散見されています。

 

それでもどこか、共感できるはず

ところがですよ、終始クズだクズだとけなし倒した永くんは、どこか人間らしい部分があって憎めない。

演劇にどっぷり浸かった日々が続いていくなか、自分にはその才能がないんじゃないかとうすうす気づき始めてしまう。それをひたすら周りの人々に、特にサキちゃんだけには気付かれないよう、ひたすら尖って、非凡っぽく自信アリげに振る舞う。

わたしには人生の中でそこまで命を焦がしてきたサムシングがあるわけではないけれど、自己肯定感とか承認欲求とか、そんなワードのはざまで葛藤している永くんの姿は、どこか「クズ」の2文字で割り切れないところがあり、自分に重ねてしまう部分もある。

そして、永くんのクズムーブを全力で受け止めて、包み込むサキちゃん。夢のための自分の時間も薄れていく中、彼女の献身的(超悪く言えばいいなり)なその姿は、心広すぎマジリスペクト的に見習いたいと思う部分と、どこか自分を押し殺しちゃってる部分が見えて痛々しいと思う部分が入り混じっている。

そんなクズと天使の何気ない暮らしの中にも、やっぱりひとさじ程度の幸せや心地よさはあって、こういう何気ないやりとりっていいなあ〜と思える描写もあったりする。ちょっとしたワンシーンにリアルがこぼれ落ちている。

かいけつゾロリよろしく、”まじめにふまじめ” を貫いたことがある人であれば、うっかり共感できちゃうところがあるんですよ。きっと。

でもでもやっぱり、優しさの塊なサキちゃんでも人の子なわけで。結果、サキちゃんの中の「クズムーブ受け止めキャパシティ」がいっぱいいっぱいになってしまったそのとき、一気に壊れて、歯車が狂いだしてしまうのですよね。

結果、冒頭から続くちょっと長いように感じるかもしれないイライラとモヤモヤは、最終的には作品全体を通して良い起爆剤として作用していると思うのです。

 

ハッピーじゃないけど、ベストエンディング

いびつな2人の関係で生まれていた心地よさはやっぱりハリボテで、幸せな日々はやっぱりうまく続かない。

永くんのエスカレートするクズっぷり(もはや奇行)は、サキちゃんの心を少しずつかつ確実に蝕んでいて、そのうち酒を飲まんと眠れなくなっていて、心も病んでしまう。

でも、病んでしまったサキちゃんから溢れ出てくる、永くんに対する本音の数々には真のリアルが詰まっていて、あぁ、やっぱサキちゃんも人間だったんだ。菩薩でも天使でもない、血の通った人間なんだなって、変な話、安心感みたいなものも生まれていた気がします。

そこから取り繕うとする永くんの姿もこれまた痛々しい。不器用だけど、サキちゃんを笑顔にするために試行錯誤する。でも、壊れてしまったサキちゃんにはもう届かない。

永くんの努力も虚しく、サキちゃんは療養も兼ねて地元に帰ることになり、永くんが転がり込んでいたサキちゃんのお家も退去することになるんだけど、しばらく地元に戻って久しぶりに下北に戻ってきたサキちゃんは、以前の朗らかなサキちゃんにちょっとだけ戻っていて。

引っ越しはふたりの別れを象徴するシーンでもあるのに、思い出を振り返るふたりは、朗らかで楽しげ。出会って付き合い始めた頃の、冒頭の二人の雰囲気に戻っていたのでした。

サキちゃんが出演した過去の台本を二人で読むシーン。本来のセリフとは違うアドリブのセリフで、永くんはこれまでの自分を振り返って独白を始める。お互いにもっと歩み寄って踏み込んでいれば…っていう後悔が入り混じってて、それでももう、後戻りできないこともわかってて。

あれ、、、この時点で、わたし、なんか目から汁が……!

そしてそのまま、永くんが演者として立っている劇団「おろか」の公演中の舞台上へとシーンが移るギミックはちょっと鳥肌が立ってしまった。映画通の人からしたら、よくある手法やで、って感じなのかもしれないんだけど、客席にいたサキちゃんを見て、わたしの涙腺は大爆発してしまいました。

サキちゃんが客席で「ごめんね」っていうシーンでは、永くんのことさんざんクズだと罵ってごめんねっていう私の気持ちもリンクしました(いらない情報)。

そして舞台は終演を迎えるのですが、劇団「まだ死んでないよ」の奇才、小峰(King gnu井口)も一緒の舞台に立っていて、あああ、この二人で最高の舞台を作ったのか!!ああああああああ!!!!!!という感情の高ぶりが止められなかった。

永くんは、本当に不器用なのに、よく生きてこれたね……!

舞台が終演したところで、エンドロールが流れて映画も終わるのですが、お客さんがパラパラ席を立って帰っていく中、サキちゃんはずっと立ち去らずに(立ち去れずに)座ってて、このあとの展開はどうなったのかな〜っていう想像力が膨らむ終わり方でした。

舞台の中で、自分の将来を語るセリフがあって、それはまぎれもなくサキちゃんに向けた言葉なんだなけど、たぶん私は2人は一緒にならずに別々に暮らすんじゃないかなって。小説読んでないけど、小説はその後のことが書かれていたりするのかな…?

ハッピーではないけど、ベストなエンディングだったのじゃないかなと思いました。行定勲監督、又吉氏、お見事でございました。

初見の印象は、観れば観るほどに払拭され、ふとした時に何回も見たくなる映画となりました。

こちらもどうぞ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください