Netflix作品『極悪女王』を見た感想(ネタバレなし、たぶん。)

日本の女子プロレス界における Top of the top のヒールレスラー、それがダンプ松本。現役時代の活躍は知らずとも、テレビで1度は見たり、名前くらいは聞いたことがある人も多いはず。そんな悪役レスラーが、どのように誕生して、どのように昭和プロレス全盛期を支えてきたか。ダンプ松本さんの半生を描く映像作品『極悪女王』がNetflixで公開されたので、早速全話ぶっ続けで視聴し、公開初日に全部観終わりました。

公開前から話題だったこの作品を観た感想を、できるだけネタバレ無しで、良かったところ/気になったところをまとめてみました。初見で思ったことを率直に書いていますので、良質なレビューではないかもしれませんが、自分用の備忘録も兼ねて、まとめてみようと思います。

『極悪女王』のよかったところまとめ

レスラー完全不在のなか、ちゃんとプロレスをしている

まずいちばん驚いたのは、全女黄金時代のレジェンドレスラーを演じる俳優さんの中に、ひとりもプロレスラーが存在していないこと。プロレスほどややこしいファンが多くて(自戒の念も込めて)扱いづらい題材はないと思っているのですが、普段プロレスを日常的に観戦している私から見ても、皆さんプロレスというものに体当たりでぶつかって、ちゃんと向き合っている姿が映像からも伝わるし、本物のプロレスの試合の熱気さながらで、非常に感動しました。本当に皆さんめちゃくちゃトレーニングや練習をされたのでしょう。

作中にレスラー不在ではありますが、本作にも登場する長与千種さんが立ち上げた団体『Marvelous』の選手たちがプロレス指導にあたったとのこと。俳優の皆さんは道場の入門生と同じようなメニューをこなされていたと聞いて、本当にあっぱれとしか言えません。

ちょっと脱線しますが、新日本プロレスの新人レスラー発掘プロジェクトにて、獣神サンダー・ライガーさんが練習生に「なぜプロレスラーは厳しい練習をやるのか?」と問う場面がありました。試合に耐えうる体力を付けるため、強い技を出せるようになるため、いろいろな回答が出ていたと思いますが、ライガーさんが出した答えは「死なないため。」でした。

プロレスって本当に命のぶつかり合いなんですよね。演技とはいえ、ちょっと投げ方を失敗したり受け身を取りそこねたりすると、怪我どころか命の危険も伴います。一定のシーンでスタントを設けることもできたでしょうに、あえて演者たちにプロレスを再現させるという気合の入りっぷりはお見事でした。

全女黄金時代の歴史が上手くまとめられてる

アイドルレスラーの先駆けであるビューティー・ペアに始まり、クラッシュ・ギャルズの誕生、ブラック・デビル(デビル軍団)決裂からの極悪同盟の誕生、そしてダンプ松本の引退。なんやかんや、もう本当になんやかんやと事件が絶えない全女の歴史をわかりやすくコンパクトにまとめられていて、とても見やすくテンポのよい作品に仕上がっていました。

物語性を重視して多少脚本でのアレンジが加わっているところも多いですが、「プロレスは長く見るものだ」と言われる由縁とでもいいましょうか、あの人はこのレスラーに憧れていた、あの時のあれがこうなって、今こんな落とし所に……!! みたいな、長いストーリーラインのつながりがうまくまとめられていました。

レスラーの心情ももちろんですが、当時の全女のすべてを掌握していた松永3兄弟(厳密に言えば4兄弟)の面々も、とてもいい味を出しております。女をコマのように扱う昭和的な描写や、現代じゃ考えられないような劣悪な運営体制も含め、良くも悪くも全女の歴史がよく表現されていると感じました。

ゆりやんレトリィバァがとにかくすごい

もうやっぱり本作品はこの言葉につきます。魂の込め方がひとりだけ段違いだし、肝が座りすぎてるし、とにかくかっこいい。もう褒めだしたらキリがない!!!

序盤のピューティー・ペア追っかけ時代の可愛らしくて愛嬌のある松本香から、極悪非道のダンプ松本に仕上がっていく様を表現する力がすごかった。途中から「あれ、序盤のゆりやん、どんな感じだったっけ??」って思っちゃうくらいでした。

そして、演じるにあたってかなり増量されたようですが、ただ体をデカくするだけじゃなく、当時のダンプ松本の映像を見て、体のフォルムを忠実に再現できるよう、パーツごとに意識してトレーニングをしたそう。歩き方もそうだし、特徴的なマイクの握り方や、それに続くマイクパフォーマンスも見事なトレースで、すごく研究されたんだなと思います。地声がかわいいところもご本人そっくりですしね。

『極悪女王』の気になったところまとめ

クラッシュ・ギャルズが細い

これは人体の神秘なのでしょうがない部分もあり、非常に書くか迷ったのですが、やっぱり気になっちゃった。予告の段階で「おや……?」と思っていたのですが、クラッシュ・ギャルズを演じるお二人が、全体的にスリムボディなのです。でもお二人とも10kgは増量したと聞きまして、プロレスの練習以外にもたゆまぬボディメイクの努力があったと思います。それも重々理解しております。だけど、細い……!!!

クラッシュ・ギャルズなしで本作品は描けないからこそ、ゆりやんレトリィバァの豹変ぶりも相まって、細いクラッシュ・ギャルズがちょっぴり浮いてしまったのかなと思いました。

長崎弁がめっちゃ気になる

長与千種さんが、現役時代も公私ともにあそこまで方言丸出しだったかはさておき、唐田えりかさんの長崎弁の不自然さがめっちゃ気になりました。これは正直、唐田えりかさんやこの作品に限った話ではなく、九州地方の方言を取り入れるほとんどの作品に言えること、というか感じることです。九州地方の方言は、エンタメ作品において関西弁ほどの市民権がないので、舞台が九州ではない限りあまり注力されないと思いますが、今回の『極悪女王』でもセリフの文言は長崎弁でもイントネーションが謎すぎるので九州の方言とは程遠いものになっていました。

でもこれは、大半の視聴者にとってはそこまで問題になるようなことではなくて、わたしが福岡生まれ福岡育ち、純度100%のとんこつ女(都内在住)だからこそ気になってしまうポイントなのでしょう。長与千種さんの生い立ちをリアルに描くエッセンスとして長崎弁でのセリフを取り入れられていると思いますが、ぜひもっと!方言のリアリティを!追求してみても!いいのでは!! と思いました。

といいつつ、プロレスのトレーニングもある中で、方言の言い回しまでも完璧にするには相当大変だろうなと思いますので、九州ババアの戯言だと思っていただますと……。

ちなみに長与千種さんの父役・宮崎吐夢さんの長崎弁が上手すぎてちょっと笑いました。

髪切りデスマッチがちょっとお涙頂戴になってる……?

これはうがった見方をしてしまっている可能性もあると思いますが、長与千種 vs ダンプ松本 の髪切りデスマッチに、ちょっとお涙頂戴っぽさが出てしまってる感があるのが気になりました。「チーチャンめちゃめちゃにされて可哀想!」的なファンの心情の描写と言うより、家族などの親近者の「香、もうこれ以上悪ぶって人を傷つけるのはヤメテ……!!」みたいな演出というか、それがなんか引っかかりました。

確かに、当時のダンプ松本の国民からの嫌われっぷりはもはや語るまでもないですし、家族(実家)にまでもいたずら電話や殺害予告の手紙が届くなど相当な嫌がらせを受けたと聞きます。なので、リアルなご家族の気持ちとしては、モウヤメテ–!! の描写は、間違っていないはずです。だけど、あの伝説の髪切りデスマッチはダンプ松本の極悪ぶりを象徴する試合であり、心優しい松本香が日本中からのヘイトを背負いヒールを貫いた試合だったので、試合中はダンプ松本の “圧倒的な悪” に集中できる時間であってほしかったかもしれない、と思いました。

表現として正しいかわからないけど、ちょっとだけブラック・スワン化してるような……? あそこまで狂ってないけど、そんなイメージ。でもこれはわたしの感受性がよろしくないだけかもしれませんし、表現として間違っている!とか言えるほど当時の状況に明るいわけではないので、これも戯言程度に思っていただけますと……。

まとめと余談

全体的にすごくおもしろくて、たくさんの方に観てほしい作品であることは間違いないです! プロレスファンゆえに “細かなリアルさ” を求めすぎちゃったところもありますが、事実にほぼ忠実に作られており、プロレスを知らない人でもスッと入り込めるよう、エンタメとしてわくわくできる脚本になっていて素晴らしいと思います。

個人的に細かい好きなポイントもたくさんあって、80年代のレトロなファッションがかわいいところとか(特にダンプ松本の妹の覚醒後とか)、作中の実況アナウンサー志生野温夫さんを現役実況アナの清野茂樹さんが演じられているところだとか、ブル中野さん役の堀桃子さんが普段はかわいらしくて様子おかしい(褒めてます)↓のに、

ブル中野スイッチが入ったらめちゃくちゃドスのきいた声色でヒールレスラーになるところとか。

プロレス以外も細かいところまで手が込んでおり、スケールも予算も夢もモリモリ!な、日本が世界に誇れる映像作品になっています。

そして、初見ではその意図を汲むことはできなかったのですが、「男社会を壊す少女たち」というメッセージも込められていたそうで、作品視聴後にインタビューを読み、なるほどなるほどと頷いておりました。

あと完全なる余談ですが、実は後楽園ホール付近に住む知人から、本作でエキストラ募集していることを教えていただいてました。めっちゃエキストラ参加したかったのですが、仕事諸々の都合がつかず断念しました。だけど後々考えたらどんな仮病を使ってでも、無理やり仕事を休んで行くべきでしたね。これは。

気になる方はぜひ観てみてくださいね!っていうか観たほうがいいよ!

Information

Netflixシリーズ

極悪女王

全5話

※2024年9月時点の情報です。最新の情報は公式サイトにてご確認ください。

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